Fragrance Lab. BLOG

フレグランス・ラボ通信

2021-06-03

#香りのエトセトラ

第2回|天然香料と合成香料の違いと安全性について|香りのエトセトラ

香料のことについてあまり詳しくないという方も、「天然香料」と「合成香料」という言葉を耳にしたことがあると思います。

合成香料ってケミカルだし身体に凄い害があるんでしょ?やっぱり天然香料のオールナチュラルなものが安心よね!と、何となく思うだけで、本当の違いや安全性という面からの正確な知識を持っている方は以外と少ないのではないでしょうか。

 さて、フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする 【フレグランス・ラボ通信】 香りのエトセトラ第2回目は「天然香料と合成香料の違いと安全性について」のお話です。

天然香料と合成香料の違い 安全性の大きな誤解

天然香料と合成香料

 天然香料とは自然に自生している植物から採取された香料のことを指します。 人が苗から育てた植物(植物畑)も勿論含まれますが、化学肥料や農薬を一切使用していないものはその中でもオーガニックと呼ばれてランク付けされています。

一方、合成香料とは、人工的に化学的手法でつくられた香料のことを指しますが、自然界には存在しないものも含まれます。 香料の分類については長くなりますので、また別の機会にお話ししますが、天然香料の対極は合成香料ではなく、「単体香料」というカテゴリーになります。そして単体香料の中でも「単離香料(天然の植物からある特定の成分のみを取り出したもの)」と、「合成香料」に分類されています。そして、これらのすべての香料を総括したものを「調合香料」と呼んでいます。香料メーカーやパフューマーが扱う香料は、その用途によってこれら全ての分類の香料を使っているのです。


本当に天然な香料は安全で、化学的な合成の香料は危険なの?

 では次に、その安全性の観点からお話を進めていきましょう。今、世の中は「自然から得た物質は安全で、人工的に作られたものは危険だ!」という認識が広がっているのが現状ですが、実際の所、その考えは大きな誤解が生じています。

では、なぜ「天然香料が体にいいとか、安全だ」という認識を持つのでしょうか?

それは、アロマ精油のような香料関係の商品をあつかっている会社やメーカーが「自然派」を打ち出すことで、安全性を強調しそれを打ち出して商品を沢山売れるようにしようとする、宣伝広告/マーケティングの手法として利用している側面があるからなのです。

もちろん、私達アート・ラボでも、天然香料を使ったアロマディフューザーやエアーリフレッシャーなどを発売していますし、天然香料が悪いということを言っているのではもちろんありません。あくまで、「天然だったらなんでも安全だ」という認識の仕方に、私たちは大きな問題があると考えています。

アロマセラピーにおける天然精油の効果・効能には、私たち人間の誰もが享受できる素晴らしい働きをもたらせるものも数多く存在します。

しかし、それをどのように用いたらいいのか、あるいはどのような場合には使用してはいけないのかを、しっかりと専門家に確認することも大切だと思っています。


天然の香料でも危険なことも

 例えば、リラックス効果が期待できるとされているラベンダー油にもその使い方によっては危険な場合もあります。

妊娠中(特に妊娠初期から中期)には直接肌につけない方がいいと言われていますが、それはラベンダー油に限らずいくつかの精油にも通経作用やホルモン作用を促すものがあり、最悪の場合には早産や流産の危険も伴うということもあるからなのです。

また、自然から採れたものである以上栽培地の土壌汚染などの情報も分からないことも多く、天然の精油に含まれる不純物の混入量までは、なかなか明らかにされていないのが現状です。

天然香料は天然由来ですので、含まれる成分分子のばらつきがあることもその特長だと言えます。

大切な事は、どのようにして採取されたかが問題ではなく、どのような化学成分がその物質に含まれているのかを明らかにすることが必要だと思います。

 一方、合成香料は近代的な手法で合成されその分子の純度も高く、例え不純物がある場合でも、その混入量なども明らかになっています。 私たちアート・ラボが使用している香料原液は、国際基準で定められている安全性テストに合格したものだけを使って製品を作っていますので、すべての香料には化学成分表があります。輸出入の際にはこのデータが重要となるからです。

グローバル化によって今や世界中の香料が日々流通していますが、IFRAという(International Fragrance Association)「国際香粧品香料協会」が国際的な安全管理体制のもとで業界の自主基準を設けており、現在流通している香料は一定の安全性を担保していると言えます。

合成香料イメージ

科学の力によって様々なことが明らかになってきたとは言え、まだまだ解明されていないことも多く残されているのも現実なので、どちらにしてもすべてを鵜呑みにしない心構えは大切かと思います。


すべてのものは毒であり、毒でないものなど何もない

中世ヨーロッパ(スイス出身)の錬金術師で医師でもあったパラケルススという人は、次のような言葉を残しています。

    “すべてのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。毒か薬かを決めるのは、その内容というよりもその服用量である”
    “Alle Dinge sind Gift und nichts ist ohne Gift; allein die Dosis macht es, dass ein Ding kein Gift ist.”

即ち、彼が言いたかったことは「なんでも過剰摂取はだめだ」ということの他にならないのだということではないでしょうか?

たとえ健康に良いと言われる食材であっても多くを摂ると毒となり、やがては健康を害してしまいます。


例えば、私達人間にとって「天然の塩」は生きるために大切な物ですが、過剰摂取をするとどうなるのか。

実験によると、塩の場合には体重1kg当たり3.5gを一度に摂取すると健康を損ねるという結果が出ています。 これらのことから、すべての毒性の判断は、天然であっても合成であったとしても摂取量と深い関係があり、 単純に天然か合成かの成分の違いだけではないということが、お分かりいただけるかと思います。

ただし、ルームフレグランスや香水は体内へ直接摂取するものではなく、空気中に揮発・浮遊するものとなります。そこまで神経質に考えなくても大丈夫でしょう。

現在、取り扱いのある天然香料も合成香料も、使用方法を間違えなければどちらも問題の起きない香料です。


最後に

正しい認識をもって香りに向き合うと、また意外な香りに出逢えるかもれませんね。

次回 【フレグランス・ラボ通信】〜香りのエトセトラ〜第3回は、「ムスクの香りはなぜ人気?」です。またお逢いしましょう。