MY STORY

私のストーリー(気まぐれ日誌)

2021-08-17

第十章:【太古の記憶が呼び覚ます香り・恩師との出会い】

第八章第九章でのアフリカ旅行で触れたように、 アフリカから無事に帰国した私の脳裏にずっと焼き付いていたものは「あの時の涙」に溶け込む夕日の情景だけでした。

仕事をしながらもしばらくは忘れられない日々が続きます。

エンシェント・メモリーズ・・・

私は、以前アカシックレコードという言葉を心理学の書籍で知ったことを思い出します。

前世がもしあると仮定したら、人にはその時の記憶が何かをきっかけとして、よみがえることがあるというものですが、まさにこれがそうなのかもしれないと思い始めます。

そして、私は、「人間の能力の中で一番根源的なものは何か?」という問いかけをすることになります。

そこで、気づいたのです。

人間の五感のなかで一番プリミティブで一番本能的な感覚は「嗅覚」だと。

嗅覚=香り

香りの世界。これをビジネスの切り口にしたら面白いことができるかもしれない!そう思った私は、それから会う人会う人に対してその想いを打ち明けてゆきました。

自分から何かを発信しなければ、なにも前には進まない ということを朧気ながらに感じていたのかもしれません。

何人目かは忘れてしまいましたが、ひょんなことからある陶器メーカーの専務さんとの会話の中で、私はまたこのストーリーを話します。 そうすると、予想もしていないことが起こったのです。

「それなら、私の幼馴染に香料の原料会社で研究員として働いている友人がいますから、一度会ってみますか?」と言われたのです。

期待もしていなかった私は、びっくりしてしまいましたが、もちろんすぐに紹介の電話を入れていただきました。

それから運命のスピードはどんどん加速 してゆきました。

その研究員の方とお会いした日に、居酒屋で遅くまで飲んだ挙句にその方の家に泊めていただくことになったのです。

「髙木さん、わたしのよく知っている香料会社を紹介しましょう!その香料会社の社長さんはとても素晴らしい人ですが、ただとても偏屈な方なので気に入られなければお取引は出来ないだろうと思いますが、それでも大丈夫ですか?」と、そんなことを言われたのです。

私は、一抹の不安はありましたが、こんなチャンスは二度とない、と思いながら即答で「是非お願いします。」と応えました。

友人から友人、そして恩師との出会い

  

そしてその紹介された社長さんとの面会の日がやってきました。

1992年の秋頃(記憶が飛んでいます・・)私は、緊張していました。

でも正直に思っていることのすべてをその社長さんに話し続けました。

  

その後、社長さんからは、「いつでもまた来てよろしい」といわれホットしたことを思い出します。

陶器の卸売りはもちろんまだ続けていました。生活のためです。

  

しかし、香りの勉強をしてゆくにつれて、「これは、陶器のビジネスは早々に辞めることになるな」と思い始めます。

その後も、週末にはご自宅に招待していただき長時間マンツーマンでの講義と調香の勉強が続いたのです。

そして、「君が最後のわたしの弟子だよ」とのお言葉をいただきます。

本当に嬉しい瞬間でした。

化学者でありながら、哲学者のようにも思える数々の言葉。

そのなかでも、私が本当にこの香りビジネスに人生をかけてみたいと思った言葉が、こちらです。


Fragrance is Visible「香りは観てとれる」

恩師からその教えを受けた時は、いまでも忘れられないほど心の震えを覚えました。

そこで私は、「香りのインテリア」というキャッチフレーズを自分で作り、当時はまだ市場自体がない香り雑貨のモノづくりをゼロから目指す傍ら、東京から福岡まで香りの教室を開催し、少しでも多くの人に香りに興味を持っていただけるようにと、伝道活動をはじめました。

それは、この言葉と出会えたおかげであると感謝しています。

いまから 30 年ほども昔の話です。この「見えないはずのものを見る」という思想はある意味で哲学です。

伝統芸術である香道の香を聞くという「聞香」(もんこう)にも通じるも のがあり非常に興味深く、また日本人が古来受け継いできたその精神にも相通じるものがあります。

大切なものは、本当は目には見えないものなのかもしれません・・・。

真心や心遣い、思いやりや、おもてなし。みな目にみえないものです。

心の目でくみ取らなければ見えてはこないもの・・・そして人間にとって忘れてはいけない大切なものだと・・・。

感情表現と香りの可能性

喜怒哀楽をつかさどる脳の部位と直接つながりを持っている嗅覚の 可能性を追求し、香りにできる新たな取り組みを進めていこうと決心をしました。

一方で、香り雑貨の売り場の方は、決して順調とは言えませんでしたが、少しずつ卸先も増え始めてきていました。

私は、卸先のバイヤーさんからのリクエストもあって、実際に店頭に立って直接お客様に香りの説明などをしていました。

反応は悪くなかったのですが、お客さまからの質問は決まって下記のような内容でした。

「この香りは、どんな効能があるのですか?」とか「夜によく眠れる香りはどれですか?」

などといった、効果効能を知りたいお客さまがほとんどでした。

おそらくその理由は、1993年頃から日本に輸入され始めた英国のマギーティスランドやニールズヤードなどの「アロマテラピー」のエッセンシャルオイルに影響を受けた人達が増え始めていたからです。

私もまだ日本に精油が輸入されていなかった頃に、アメリカのアロマランド社にコンタクトをとっていたのですが、これは私がやらなくても誰かが広めるなと思い、当時親しくしていた会社の社長にお譲りしました。

もちろん精油の勉強も必要なので基本的なことは取り入れていますが、私が本当にやりたかったことは、香りをインテリアとしてとらえること。そして絵画のような芸術として広く世の中に浸透させるというミッションです。

そんな時、大きな出来事が起こります。大震災です。


次章へ続く・・・・